アトピー性皮膚炎に苦しむ犬は多く、また夜も寝られずに搔き続けているペットをみる飼主様もまた非常にツラい思いをします。
原因は自分の免疫細胞が害のない物に対しても過剰に反応してしまうからです。
「なかなか皮膚病が治らない」、「皮膚病を治療すると良くなるが少しするとすぐに再発する」そんなワンちゃんは実はアトピーが隠れているかもしれません。
アトピー性皮膚炎の診断には以下の基準があります。
・発症年齢が3歳以下
・飼育環境の多くが室内
・グルココルチコイドに反応する痒み
・慢性・再発性のマラセチア感染症
(初診時に赤みのない痒みあり)
・前肢に病変あり
・耳介に病変あり
・耳介辺縁には病変なし
・体幹背側には病変なし
これら8つの項目のうち、5項目がそろえば80%の可能性でアトピー性皮膚炎と診断できます。ただし皮膚病がアトピー単独である保証はなく、難治性の場合には他の皮膚病が混じって治療を困難にしている場合があります。
アトピー性皮膚炎で問題となるのは皮膚の状態、感染、環境、食物があります。
皮膚の状態
ドライスキン、脂漏症、ステロイドによって薄くなった皮膚、これらはアトピーの増悪因子です。
感染
皮膚上で増える細菌、カビなどです。弱くなった皮膚のバリア機能では簡単に感染します。するとアトピーの元がある感染性皮膚炎となります。抗生剤や抗カビ剤で良くなりますが、治療を終えると直ぐに再発します。再発しやすい外耳炎・趾間炎もアトピーが隠れている可能性があります。
環境
アトピーを起こしているアレルゲンを知る必要があります。環境アレルゲンとして家ダニや風呂場のカビ、近所の雑草や木々などがあります。知ることで散歩コースの変更や集中して掃除する場所が分かります。
食物
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは厳密には区別されるものですが、犬のアトピー性皮膚炎と食物アレルギーは区別が難しいものです。それは犬の食物アレルギーは皮膚症状が殆どで症状もアトピー性皮膚炎と似ているからです。アトピー性皮膚炎の患者さんの7割が食物アレルギーを併発しているという発表もあります。
これらの要因を踏まえて当院では以下の治療を行っています。
第一段階(軽度のアトピー性皮膚炎)
①アトピー性皮膚炎・食物アレルギー用の療法食の開始
療法食は副作用などがなく、その食事と水だけで管理します。おやつをあげられない、効果を見極めるのに2~3か月かかるのがメリットですが、比較的安価で副作用がないのでお勧めです。
②シャンプー療法
シャンプー療法も副作用がなくお勧めできる治療です。アトピー性皮膚炎が皮膚の状態や感染が要因となるのですから、シャンプーで皮膚の状態を整える、清潔にするのは大切です。皮膚炎がある状態では週に1~2回、皮膚炎のないアトピーの子は一か月に1~2回をお勧めしています。薬用シャンプーの種類は多岐にわたるので獣医師が皮膚の状態・感染を考慮して決めます。ただしシャンプーは合う、合わないがありますのでしばらくしても(1か月)改善しない場合は獣医師と再度相談する必要があります。
③外用療法
皮膚炎の場所が非常に限られている場合は、軟膏やクリーム、スプレーなどで管理します。内服するよりも全身への影響が少なく、部分的に高濃度に薬がつけられるので、効果が早いです。デメリットは同じ場所で再発が多いと薬の影響で皮膚が薄くなります。皮膚が薄くなると外用薬を使っているときはいいのですが、やめると薄くなった皮膚がばい菌にすぐ負けてしまい、毎日つけないとダメな状態になってしまいます。
④内服
皮膚炎が広範囲、または多発性の場合、外用ではお薬でベタベタになったり、すぐにお薬がなくなってしまいます。そのような時は飲み薬で対処します。年に1回~2回皮膚症状がでる子には有効です。但しステロイドというお薬を使うので、長期(2週間以上)で使うことはお勧めできません。
第二段階(中程度~重度のアトピー性皮膚炎)
第一段階の治療で痒みや皮膚症状が抑えられない場合、または最初からアトピー用のお薬を使いたい場合には以下の治療法があります。
インターフェロン療法
院長が最も好きな治療です。巷の獣医さんの中では「利かないね」という噂もありますが、しつこくやっていると70%以上の患者さんの痒み・皮膚症状が改善されます。多少痒みが残っている子の飼主様も、「前より良くなった、満足」と話してくれます。そんなに良いなら、なぜ人医療でやられていないかというと、人はこの成分で発熱がよく起きるようです。犬ではそれが無いので使えるという事です。
メリット
副作用がない、他の治療(免疫抑制療法を除く)と併用できる。
認可はとっていないが成分が癌に対する抵抗力を増強する・・・かも。
根治またはそれに近い状態にもっていくことができる。
デメリット
注射を週に1回しなければならない(最低でも2か月)
→その後は徐々に間隔をあけていきます。
利くのが遅い
→体質改善の注射なのでしょうがないかもしれません
アポキル療法(内服薬)
ステロイドに代わり近年、注目されている痒み止めの薬です。従来の薬はステロイド以外は利くまでに時間がかかりました。このお薬はステロイドと同じくらい早く痒みを止めてくれます。またステロイドのように長期投与で発生する副作用がありません。たまに薬の合わない子がいて一過性の嘔吐・下痢が出る場合があります。
メリット
直ぐ効く
大きな副作用がない
デメリット
根治療法ではない
お薬が高い
たまに胃腸症状が出る子がいる
免疫抑制療法(シクロスポリン、内服薬)
アポキルが出るまでは主流でした。免疫を抑える薬でアトピーの過剰な反応を抑えます。効果が出るまでに2週間程かかるのと、犬の長期投与で歯肉過形成(良性)が起きる場合があります。内服を止めると徐々に治ります。
犬の歯肉過形成
アポキルがある現在、犬のアトピー性皮膚炎で使用することはあまりないかもしれませんが、他の治療がうまくいかない子には使用することがあるかもしれません。
メリット
今ではあまりない
デメリット
直ぐに利かない
根治的でない
薬の値段が高い
免疫を抑制する
歯肉過形成が起こるかも知れない。
減感作療法
欧米では人のアレルギーについて減感作療法が根治治療として普及しています。
当院では現在2種類の減感作療法を採用しています。
①アレルミューン(注射)
特定のダニの成分に特化した減感作用の注射です。週に1回、計6回打ちますが、場合によっては1か月に1回の頻度で追加注射を行います。アレルゲンが複数であっても主要なアレルゲン一つに対して減感作を行えば、症状は改善するという先進的な考えが下地にあります。またこの注射にはアレルゲンに特別な成分をつけて減感作で心配される急激な反応を抑える仕組みがあります。
メリット
週に1回でよい
減感作療法としては効果は早め
減感作療法で注意しなければならない過剰反応が起きにくい
デメリット
特定のダニの成分に反応しない子は対象外
一つだけのアレルゲンでどこまで痒みを抑えられるか…
②スペクトラムラボ(内服)
アレルギー検査を行い、その結果をアメリカの会社に送付。結果よりオリジナルの減感作薬を調合してもらい国内に輸入します。
昔からある減感作療法の王道なので信頼性があります。注射で行う方法と口にスプレーする方法がありますが、注射であればインターフェロンでも良いので、現在は口にスプレー方式が主流です。
メリット
信頼性が高い
自宅で減感作療法ができる
デメリット
海外薬なので治療開始までに時間がかかる
効果がでるのに時間がかかる
も参考にして下さい